仙台地方裁判所 昭和62年(ワ)829号 判決 1992年3月26日
原告
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
斉藤基夫
被告
甲野春子
同
乙川二夫
同
丙沢秋子
同
乙川夏子
被告全員訴訟代理人弁護士
佐々木泉
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1(一) 被告甲野春子は、原告に対し、別紙目録二、七記載の不動産について仙台法務局東仙台出張所昭和六〇年六月一五日受付第一三三四六号所有権移転登記の、同目録三ないし六記載の不動産について同出張所同月八日受付第一二八九六号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
(二) 被告乙川二夫は、原告に対し、別紙目録一記載の土地について、同出張所昭和六〇年六月八日受付第一二八九五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
(三) 被告甲野春子、同丙沢秋子及び同乙川夏子は、原告に対し、別紙目録一ないし七及び九記載の不動産について、それぞれ昭和六〇年六月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(四) 被告甲野春子、同丙沢秋子及び同乙川夏子は、原告に対し、別紙目録八記載の土地について仙台市農業委員会に対して農地法三条の許可申請手続をし、同目録一〇ないし一四記載の土地について宮城県宮城郡利府町農業委員会に対して農地法三条の許可申請手続をし、かつ、右各許可があったときは、それぞれ昭和六〇年六月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 訴外甲野太郎(以下「訴外太郎」という。)は、別紙目録記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。なお、本件各不動産を個別的にいうときは「本件一の不動産」、「本件二の不動産」などという。)を所有していた。
2 訴外太郎は、昭和五三年一〇月頃、原告に対し、自分が死亡したときには本件各不動産を贈与する旨の意思表示をし、その頃、原告はこれを承諾した。すなわち、訴外太郎は、昭和五三年一〇月中に、友人である訴外丁海三助(以下「訴外丁海」という。)に代筆させて「遺言書」と題する書面(その記載内容は別紙遺言書写しのとおりであり、以下「本件書面」いう。)を作成し、これを原告に示して、原告に対し、自分が死亡したときには本件各不動産を含む訴外太郎の全財産を贈与する旨を明らかにするとともに、その保管を委託したので、原告はこれを承諾したもので、これにより訴外太郎と原告との間に書面による死因贈与契約が成立した。
3 訴外太郎は、昭和六〇年六月三〇日死亡した。
4(一) 被告春子は、本件二及び七の不動産について仙台法務局東仙台出張所昭和六〇年六月一五日受付第一三三四六号所有権移転登記(原因昭和六〇年四月一〇日贈与)を、また、本件三ないし六の不動産について同出張所同月八日受付第一二八九六号所有権移転登記(原因昭和六〇年四月一〇日贈与)をそれぞれ経由した。
別紙
別紙遺言書
甲野太郎
一、<省略>
一、私の名儀にある総ての全財産を私の死後は甲野一郎(孫)に委譲するものとす
一、<省略>
(二) 被告二夫は、本件一の不動産について、同出張所同日受付第一二八九五号所有権移転登記(原因昭和六〇年四月一〇日売買)を経由した。
5 原告と被告らの身分関係は、別紙身分関係図記載のとおりである。すなわち、被告春子は訴外太郎の妻であり、被告秋子と被告夏子は訴外太郎の子である。
6 よって、原告は、本件一なし七の不動産の所有権に基づき、被告春子及び同二夫に対し、右被告らの有する前記各所有権移転登記の抹消登記手続を求め、被告春子、同秋子及び同夏子に対し、訴外太郎の原告に対する死因贈与に基づき、訴外太郎の相続人として、本件一ないし七及び九の不動産について、昭和六〇年六月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をすること、本件八、一〇ないし一四の不動産について、所轄農業委員会に対する農地法三条の許可申請手続、及び右各許可があったときはいずれも昭和六〇年六月三〇日贈与を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、訴外太郎が訴外丁海に対し本件書面の代筆を依頼したこと及び本件書面の記載内容が原告主張のとおりであることは認め、その余の事実は否認する。本件書面は、あくまで遺言書として作成されたものであり、原告に対し訴外太郎の全財産を「委譲する」旨の記載は死因贈与を意味するものではなく、原告に対する遺贈ないしは分割方法の指定の趣旨で書かれたものである。また、訴外太郎が原告に本件書面の保管を委託したことはない。
3 同3ないし5の事実は認める。
三 抗弁<省略>
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1、3、4、5の各事実は、当事者間に争いがない。同2の事実のうち、訴外太郎が訴外丁海に対し本件書面(<書証番号略>)の代筆を依頼したこと及び本件書面の記載内容が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。そして、証人田中五郎の証言及び原告本人尋問の結果(一部)によれば、訴外太郎が、自分が死亡したときは、自己の財産を、酒飲みの長男の四郎ではなくて、孫の原告に対し、譲りたい意向であることをごく親しい人にほのめかしていたことが認められ、この事実と本件書面の文言を合わせ考えると、本件書面は、訴外太郎が自分の死後本件各不動産を含む自已の全財産を原告に譲ることなどを目的として、遺言のつもりで作成したことが明らかである(ただし、本件書面は訴外太郎が自書したものではないから、自筆証書遺言として無効であることはいうまでもない。)。
二そこで、本件書面が原告主張のように死因贈与の意思表示の趣旨を含む書面といえるか否かを検討する。
証人鈴木六郎、同甲野山子(一部)の各証言並びに被告二夫の本人尋問の結果によれば、訴外丁海は、代筆した後、訴外太郎が死亡してその葬儀の日まで本件書面を保管したうえ、葬儀の日に四郎方に持参して、四郎や原告に対しこれを呈示したことが認められ、したがって、原告は葬儀の日以前に本件書面を見る機会はなかったのであるから、原告本人尋間の結果のうち、原告が訴外太郎から本件書面を示されて死因贈与を承諾したという部分は、真実に反するものといわざるを得ない(なお、証人甲野山子が当初原告の主張に符合する証言をしているが、右証言は、訴外丁海が本件書面を葬儀の日に持参したことについていったん具体的にして詳細な証言をしたうえで証言を変えた後のものであり、到底信用することができない。)。
そうすると、本件書面は、遺言書以外のなにものでもなく、その作成の状況、保管の経緯、原告等の親族に呈示された時期などの事情を加えて斟酌しても、死因贈与の意思表示の趣旨を含むとは認められず、また、それに対する原告の承諾の事実も認められない。したがって、訴外太郎から原告に対する死因贈与は認められないのであるから、原告の請求は、その余の判断をするまでもなく、すべて理由がない。
三よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官塚原朋一)
別紙目録<省略>